システムとして見る製造業(製造業診断入門)
中小企業診断士の中には「製造業は経験が無く、よく分からない」という方もいます。
私達の生活には工場で製造された製品が数多くありますが、工場そのものに入る機会は少ないため小売業やサービス業に比べて分かりにくい印象があります。
これから製造業を診断・支援する方のために、ここでは「システム」の切り口をご紹介します[1]。製造業を少しでも分かりやすく捉えられればと思います。
一般的な生産活動
中小企業診断士資格者は『運営管理』の項目で製造業について学びますが、一度工場に入るとそこは学んだこととは別世界です。
私自身、初めて工場に入った時には「大きな機械がある、材料がある、作業をしている人がいる」ということしか分からず、課題や改善など言えるレベルではありませんでした。その際に先輩コンサルタントに教わったことは「どこから材料が入って、どこで加工されて、どこで完成するのか、まずは工程の流れだけ追っていけ」ということです。
この言葉の通り製造業の生産活動は、単純化すると
材料を投入する
↓
作業により加工する
↓
製品が出来上がる
として説明できます。
工場では1度にロットサイズ分を生産しているので工程間のつながりが分かりにくいのですが、もし製品1つだけを生産する流れを見せてもらえれば、初めて工場を見る人でも製品の成り立ちが理解できるかと思います。
システムとは
「システム」という言葉を調べると
『多くの物事や一連の働きを秩序立てた全体的なまとまり。体系。もっと狭くは、組織や制度』
という定義が出てきます。
この少し定義とは異なりますが、ここではシステムを「インプット」→「加工」→「アウトプット」の3要素のつながりから成る要素の集合と考えます。
最初から製造業で説明すると分かりにくいので、3要素を一度料理で考えてみます。
「インプット」は食材が思い浮かびますが、食材だけではありません。食材以外に
・包丁やコンロなどの調理器具
・レシピ
・調理する人(の技量・時間)
などがインプットに当てはまります。
「加工」は実際の調理が当てはまります。
レシピは加工に近いですが、あくまでも設計図であり必ずしも調理者がレシピ通りに行うわけではないためインプットになります。
「アウトプット」は出来上がった料理です。
出来上がった料理がどういうものになるかは、インプットと加工次第です。
例えばインプットのレシピに食材の切り方が明記してあり、それを調理人が理解できかつ忠実に従うのであれば、出来上がった料理に入っている食材の大きさ・形はレシピ通りになります。
こうした「インプット」→「加工」→「アウトプット」の3要素のつながりの集合をシステムとして考えます。
製造業をシステムとして見る
では、先ほどの料理を製造に置き換えて、改めて生産活動をシステムとして見ます。
インプット=
・材料・部品
・生産機械・器具
・設計図・作業指示書・作業標準書
・作業者(の技量・時間)
加工 = 実際の作業工程
アウトプット = 製品
になります。
上述した料理と生産活動で大きく異なるところは、求められる精度です。
一般的に料理においては味や見た目のばらつきがある程度許容されますが、多くの製造業では許容されるばらつきは非常に小さなものになり、設計図や完成写真に非常に近い製品[2]が求められます。(求められる精度に関しては製品によって大きく異なります)
生産活動において重要な要素はQ(品質)C(コスト)D(納期・生産時間)であり、『最も効率よく良品を提供し続ける』ことが命題です。これらを合わせて考えると、向上で行う生産活動を診断する切り口になります。
システム観の応用
さて、上記のシステムとして見ることは生産活動だけに当てはまるものではありません。全ての仕事はシステムで行われています。
例えば生産活動のインプットとなる材料・部品の調達を取っても、
インプット→ 仕様・納期等受注情報、自社生産情報、部品表、購入先情報、調達担当者など
加工 → 調達活動
アウトプット → 材料・部品の調達(品質・納期・金額等)
となります。
これを応用して事業や活動をシステムの切り口で考えると、
『この会社の改善活動は、活動内容(加工)も成果(アウトプット)もよく出来ていて上手く行っているように見えるが、改善アイディアの元になる研修や他社見学などの情報(インプット)が無い。その内改善のアイディアに詰まる可能性が高い』
というように、それまで気付かなかった問題を発見したり、事業のネックになっている問題を特定できたりします。
切り口を持つことの強み
中小企業診断士や経営コンサルタントの一つの強みは、企業全体を俯瞰できることです。これにより「経営」の視点から見た発言が出来ます。ただそれにはある程度の経験が必要です。
今回紹介した切り口はそうした経営視点を得るための一つの切り口です。同様に世の中には経営分析の切り口が様々あります。
その中で、これまで弊社で知り合ってきた力のある経営者・管理者やコンサルタントは、そうした様々なものを使い分けるのではなく、1つか2つ自分の得意技をもって経営を診断していました。
何を得意技にするかは人それぞれですが、これから診断を行う方は何か一つ自分の武器になる切り口を見つけ、磨いていって頂ければと思います。
[1]「システム」として企業活動を見ることについては、書籍『生産マネジメント入門Ⅰ・Ⅱ』(著:藤本隆宏)のⅠ.生産システム編で紹介されています。ここでは分かりやすくするために簡略化して説明しています。
[2]『製品にはばらつきがある』というのが製造業(品質管理)の基本的考えのため、「設計図や完成写真と同じ製品」という言葉を使用していません。